2015年9月3日木曜日

お尻ぺんぺん

自分が死ぬ時のことを考える。死の床にかけつけた息子たちに一つだけ謝りたい。子供の時叩いたことだ。いわゆる『お尻ペンペン』だ。躾のため、というよりも自分の感情が激して叩いていた。お尻を叩いたつもりでも、時々背中の方にも手は当たっていただろう。

そのことを考えると今でも必ず涙が出る。子供たちが叩かれるほどのどんな悪いことをしただろう。叱ることは大事だが叩くことはなかったのに、と今こうして書いているだけでも滂沱の涙だ。

次男はマリーに、自分は両親に叩かれたことがない、と言ったらしい。夫は決して手をあげなかったが、私は叩いていた。なのに、それは覚えていないようだ。長男は多分覚えていると思う。9歳までは叩いてもいい、と日本では言われていた(らしい)。一つ、二つ、と『つ』がつく年齢の間は躾のために叩いても構わない、と。それでも自分自身のことを考えると、やはり怒りの感情から叩いていた。

子供たちが成長するにつれて、一日が終わるのが惜しくて仕方なかった。二人が家を離れる日が24時間分近づいたのだ。そして二人は大学に行き、卒業したらまた家に帰ってきた。次男は年末頃サンフランシスコに引っ越す。長男もシリコンバレーを出たいと言い続けている。シリコンバレーに対して負の感情がどんどん大きくなってきているようだ。ここには住みたくない。LAに引っ越すつもりだ、などと言う。それはある日はテキサスに変わり、シアトルに変わる。が、シアトルの不動産はもう手が届かなくなっている。

小さい時はアウトドアが大嫌いだったのに、
今はハイキングが趣味の長男

毎週金曜日の朝長男はいそいそとボストンバックに洋服を詰める。イーストベイに母親と住むガールフレンドの家に仕事のあと行き、月曜日はそこから仕事に行く。ガールフレンドも最近仕事をし始めたが、銀行での仕事はそうお給料がいいわけではなさそうだ。長男の収入も低い。いや、他の地域なら決して低くない収入が、シリコンバレーで家を買おうと思ってもお話にならないレベルだだ。

一方IT企業で働く若者たちは桁違いの収入を得る。格差はどんどん広がり、長男のような平均的収入を得る若者はアパートを借りることもできない。だから負の感情は大きくなる一方だ。

先月親戚が集まった時、長男のバースデーパーティをした

9月中旬から10日間ガールフレンドとヨーロッパに旅行する長男のために、夫は銀行でキャッシュをユーロに両替して持たせる。ヨーロッパでスリに合わないための心得、などのサイトをどんどんメールする。何か必要なものがあれば買っておくけど?と29歳の息子に言っている。

私はといえば、長男が少しでも安くチケットを買えるように、ユナイテッド航空のサイトを毎日チェックする。(実際は知らない間に長男は1350ドルで購入してしまっていた。私が見つけたのは1150ドル。)そして長男が持っていくはずのカバンの上に、旅行お役立ちグッズを置いておく。

お役立ちグッズは、無印良品のネット袋、
お手拭き、ローション入りティッシュ、
そしてiPhoneやiPad用充電器

よくしゃべる次男に比べて長男は何に対してもほとんど反応がない。昔は長男に対しても次男に対しても、母としての愛情に差は全くなかった。今も愛情の量は同じだ。が、あえて言うなら、次男は『かわいい』長男は『いとしい』だろうか。長男が黙々と食事をしている姿を見ると、胸が詰まって涙が出る。何しろ私の涙腺は切れっぱなしなのだ。次男を見ても涙は出ない。長男はなんだか不憫なのだ。こちらからメールしてもテキストメッセージを送ってもほとんど返事もしてこない長男なのに。

いや、返事はしないくせに突然こういうテキストが来る。岩隈投手がノーヒットノーランを達成した、というメッセージだ。

仕事中ちゃうんか?