2014年1月15日水曜日

冬眠

父の混乱はひどくなっていく一方だ。果たして補聴器がしばらくなかったことが原因なのか、それともアルツハイマーが進行していってるのか。

夕べいつも通り6時頃ホームに行くと、父は険しい顔をしてベットに座っていた。いつもならベットに座って寝ているか、食堂でうつむいて座っている頃だ。目を剥いて父が訴える。スタッフに夕食を部屋で食べたいと言ったが食べさせてくれない、と。

実は父の部屋に入る前にスタッフから報告があったのだ。お昼前に父が自分の部屋で排便をして、それをゴミ袋に入れてスタッフのもとに持って来たということ。それがボケによるものか、あるいは間に合わなかったのかはわからない。勿論日中はいつものように風邪をひいた、鼻が詰まる、と何度も訴えて看護師さんに看てもらったらしい。


昨日はわいわい広場がある日なので、朝9時半頃ホームに行って父を誘ったのだが、父は今日は絶対に行かないと言い張る。行くと具合が悪くなる、今日だけは行かないと絶対に譲らない。行って座って見るだけにしたら?と言っても頑として行かない。あきらめて一度家に帰ったのだ。その時も父はぼんやりした表情だった。

とにかく部屋に夕食を持って来て食べることにした。目には生気がなくただただ咀嚼している。排便のことは覚えていて、間に合わなかったので部屋でした、と言うのだが。父の好きな話をしても一瞬目が輝くが持続しない。話に乗って来ない。おやつを食べて着替えを手伝う。補聴器の交換がすんだところで帰ることにした。が、父はこのベットでこのまま寝ればいいのか、と何度も何度も確認する。もう5分一緒にいてほしい、と半泣きのような顔で言う。


が、もう私の中ではイライラが極限状態で1秒たりとも父のそばにいるのがむずかしい。もう遅いから帰ると言うと、父は「どうしてそういう冷たいことを言うんかなあ。」と険しい表情をする。その言葉にキレそうになる。明日は朝森先生の受診があるから、朝来ると言い残して帰った。



今朝は9時に家を出て森先生の病院に行って診察券を入れておくことにした。父が10時少し過ぎた頃ホームのスタッフと看護師に付き添われて来た。待合室で待ち始めた途端、時間がかかるなあ、何番目かちょっと調べてほしいと言い始める。この父のわがままにスタッフや看護師もよく付き合ってくれるなあ、と思う。他の患者が二人呼ばれたがまだ到着していないのだろう。その二人をとばして父が呼ばれた。待ち時間は10分もなかった。

森先生はまず父に首が痛くありませんか、と聞く。父は目を輝かせてちょっと痛いですが大丈夫です、と応える。この父の様子は昨日までのぼんやりした父とは別人だ。なじみのある人とコミュニケーションを取るのが嬉しいのだ。父は孤独なのだ。自分に関心を示してくれる人がいると嬉しいのだ。

スタッフから報告がある。鼻づまりや風邪の症状を訴えることが多い、それは看護師が対応しています、ということ。森先生はスタッフを見て「どうですか、首は以前より俯いていますか。」と聞く。スタッフがそうは思わない、毎夕ストレッチをしてもらっています、と応える。

「ストレッチは一日一回ではなく、頻繁にしてあげてください。それがコミュニケーションを取るということにもなります。」と先生が言う。さすがだ。父に必要なのはコミュニケーションだということが先生にはわかっている。鼻づまりや風邪の症状を頻繁に訴えるのも、他にすることがないからだ。だから自分の不調のことばかりを考える。そのことが先生にはわかっているのだ。

ここで先生に「ちょっといいですか?」と聞いて家族から見たこのところの父の症状を伝えた。ぼんやりしていることが多い。びっくりするようなことも起きた。自分に兄がいるような発言をスタッフにしたこと、昨日の排便事件、ベットや補聴器に関しての混乱。

そして最近起きた出来事。補聴器が壊れてしまったこと、松本先生の訪問リハビリがなくなったこと。


先生の診断。鼻づまりとか風邪を訴えるのは元々の性格である神経的脅迫的こだわり、敏感さで父の父らしさ。

認知機能が落ちたのは一時的なものなのか、認知症が進行しているのか、の見極めが必要。

そろばんを一緒にしてみようと
誘ったが、父は興味なし
去年は幻覚が焦点になって、薬の有効性と副作用が問題になった。もし認知機能が低下し始めると、今までしていたことができなくなる、生活しづらくなる、そこから来る混乱や困惑が問題になる。問題の質が去年とは変わって来るから対応も変わる。

認知機能の低下は薬で取り除くことはできないので、例えば補聴器の交換など自分でどこまでやってもらうか、こちらでどこまでするか、という生活の組み立て直しが必要になっていく。

寒くなったのでそういった環境の変化で一時的に認知機能が低下したのか。つまり寒い時冬眠するように意識の清明さ、活性度が下がっているので、認知機能も低下したのか。その場合は活動性がまた復帰すれば認知機能はまた上がる。

そうではなく認知症が進行して認知機能が低下がしたのであれば、生活を組み替えて行く必要がある。その見極めが今回の課題です。次回までみていただいて答えを出して行きましょう。

いつもながらの明快な診断だった。さて父は冬眠中なのかどうか。答えが出せるよう一層気をつけて観察しなければ。

待合室に貼ってあったポスター
お電話してもいいでしょうか