2013年3月4日月曜日

機内での会話

乗っていた飛行機が緊急着陸をしたことがある。

成田を出て30分ぐらいたった時だった。



2010年の7月末。夏休みのせいで飛行機は満席だった。

本を読んでいたらいきなりドン!という音がした。

地響きのような音というか、何かが機体にぶつかったような音というか。




『何か変』と思っただけで、私は本を読み続けた。

周囲の乗客も皆同じような様子だ。

そわそわしている人はいないように見える。

何もアナウンスはない。



しかし、しばらくすると機体から筋を引いて何かが出ているのが見えた。まるで飛行機雲のようなものだ。



やっと機長のアナウンスがあった。


エンジンの一つを失いました。成田に引き返す前に燃料を廃棄する必要があるので、しばらく上空を旋回します。




この時の飛行機はボーイング777。



あとで知ったことだが777は、左右の主翼に1基ずつのエンジンを搭載した双発機。日本からのフライトでよく使われている747は、それぞれ2基ずつのエンジンを搭載した4発機。

双発機の一つのエンジンが故障した場合、残りの一つでも飛行は続行できるが、推力を増加させて飛行することになる。

フルパワーで飛行する時間が長くなると、このエンジンも故障する可能性が出て来る。

だから定められた時間内に近くの空港に緊急着陸しないといけない。


私の座っていた座席のすぐ右横にあるエンジン
爆発した際カバーの蓋が開いた



747のような4発機の方が大陸間移動などの長距離フライトには適していると言えるかもしれない。

しかし、燃費と整備のコスト面で優位なので、今は双発機の方が主流になってきているそうだ。




燃料を廃棄し終わって飛行機が無事成田空港に着陸した時、機内は拍手の渦だった。

緊張がほぐれたのを感じた。

何故か怖いとは思わなかったが、もしかしたら大事故になるかもしれない、という気持ちはあったのだろう。





こういう体験をしたあと人間はどうなるか。



トラウマになって飛行機に乗るのが怖くなるのか。





違うんです。




緊急着陸を経験した、と自慢したくなるんですね(私の場合)。





日米往復を年に何度もしているとよく聞かれる。

飛行機が怖いと思うことはありませんか、と。


いえいえ、もう慣れました。全く怖いなんて思いません。


一度なんかはエンジンが爆発して、緊急着陸したこともあるんですよ。



その場にいる人たちはどよめく。



それが嬉しい。



『ど〜んと爆発音がしたので、すぐ異常事態だとわかりました。外を見ると燃料を捨てているのが見えたんですよ。』




実際には異常事態だということさえすぐわからなかった。


燃料を捨てているのも、隣の男性が連れの女性に説明しているのを聞いてわかったのだ。




さて、2ヶ月前に関空から飛んだ時はお正月のすぐあとで満席だった。


オーバーブッキングのため、ビジネスクラスにアップグレードしてくれたのだが、座席のせいかやはり頻繁に日米往復しているビジネスマンと隣り合わせになることが多い。



この時も隣席は日本とヒューストンをいつも往復している、というビジネスマンだった。


お互いに飛行機体験談で競い合う(?)。




当然私は緊急着陸の話をした。


ビジネスマンが驚く。


しばらく話したあと、彼は立ち上がり荷物入れの中から雑誌を取り出した。文芸春秋である。



これ、とページを繰って見せてくれた。


30年近く前の日航機の御巣鷹山の事故に関しての記事だ。


ちょっと状況が似てますねえ、この記事を思い出しました、と彼は言う。


私はその当時日本にいなかったので、詳しいことを知らない。

彼が詳しく事故の説明をしてくれた。



しかし数日後、ふと気がついた。

飛行中にするべき会話じゃないよね